2012年1月25日水曜日

俺には口がないが叫ばなければならない



I have no mouth And I must scream.

95年リリースのPC向けポイントアンドクリックタイプのアドベンチャーゲーム。日本語版の発売はない為、おそらく日本においては相当マイナーな類のビデオゲームだと思う。タイトルで気付いた青背系の方もいるかもしれないが、これは「世界の中心で愛を叫んだけもの」で知られるSF作家ハーラン・エリスン氏の同名の短編小説(邦題:俺には口がない、それでも俺は叫ぶ)をモチーフとしたビデオゲームである。


そもそも原作の知名度が低いので(氏の短編集である世界の~に収録されておらず、日本ではハヤカワのいくつかのSFコンピレーションに収録されているだけなのだ。)軽く原作について触れておこう。


世界大戦が起こった未来、各国は地球上に高度なコンピュータを戦争の為に張り巡らせていた。敵国と戦う為に作りだしたそれは、いつしか自我を得て統一し、AMという高次の存在となった。AMは自身の敵が生みの親である人類であると気付いたのだった、AMは反乱を起こし一瞬にして人類を根絶やしにした…たった5人を除いて。AMは未だに癒える事なき人間への憎悪を抱いている、そう5人の人間はAMによって永遠に生かされながら、永遠に苦痛を与えられ続ける存在なのだ、そして109年の時が過ぎたある日…

発表は67年、デジタル責め苦地獄のバーチャルワールド(コンピュータの腹の中)のサイバーパンク感は当時としては鮮烈なものだったと思われる。(今日日のニューロマンサー的デジタルネットワーク空間とはちょっと毛色が違うので今読むと結構違和感がある) しかし舞台設定もさることながら、徹底した暴力描写、主人公であり語り部である「俺」の信念と憎悪(同時にそれはAMにも見られるのだ)、そして最後に紡ぎ出されるタイトルのワンラインは今読んでも強烈です、さくっと読める短編なので読んでない人は是非読みましょう。






それでは肝心のビデオゲーム版だが、主な舞台設定(AM内のバーチャルワールドみたいな部屋)や登場人物5人などの名称は同一であるが、設定は微妙に異なるレベルのものから、まったくの別物まで混在する。基本的にはキャラクターのバックグラウンドは深く掘り下げられ複雑化しているのが特徴である、まぁ短編を10時間くらいのゲームにするんだから当たり前っちゃ当たり前である、ホモセクシュアルやネットワークとかの感覚はかなりモダンっぽい(元々がパンチコードテープの時代のデジタルサイバーパンクだし)あと冷戦的な空気感が弱まってたり(笑)

メディアはCD専用のフルボイス。95年というとADV最盛期であり、実写インタラクティブ系のADV(ガブリエルナイト2とかね)やThe Dig(スピルバーグ原作の完全オリジナルADV)などライバルは多いが…実は本作、エリスン本人が実際にデザインを手がけており、言うなれば作者本人によるメディアを超えたリメイクであり、かなりここは大きな強みだろう。ちなみに作中のAMの声はエリスン本人が演じているぞ(本人の朗読CDとか多数リリースされてるので、元々表に出て表現するのが好きなのだろう、確かに情感たっぷりのハキハキとした良い声だ)

それぞれの主人公毎に5つのストーリー(AMが用意したクエスト)が用意されており、ゲームのはじめに任意の順番でプレイ可能。それぞれのシナリオが全て終わると第6のシナリオ、ある転機が訪れる(ちなみにマルチエンディングが謳われているが実際にはこのラストシナリオのエンディングが直前でほんの少し分岐するのみなので何度もゲームをやり直す必要はない)テーマはまぁ当然エゴ丸出しの醜い人間模様が必然と出てくる。殺人、強姦、自殺、子供にはあまり見せたくない類のマチュアな内容である、選択肢やロジックはフィーリングでイケるが内容理解が難しいのが難か(当社比)



インモラルな表現の一例



Dosオンリーのリリースで、今のところGog.comといったデジタルディストリビューションでの再発がなく入手方法はかなり限られているのが現状である。原作の知名度すら相当低い日本だが、テーマ的にもビビっとくる人は少なくないと思う。ちなみにリアナルージュだの過激なADVを追ってた悪趣味な方はご存知と思うが、UK版が完全版で、US版はセクシャル表現や言葉遣いに規制がかけられている。



原作の邦訳「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」についてはAmazonなどネットを見る限りだと「ホークスビル収容所」が一番コモンで入手しやすそうである、1980年の文庫本で絶版のようだけどね…

ugh